是非こんな方に読んでほしい
肩関節の診断や治療に携わる整形外科医、理学療法士、スポーツ医学の専門家。また、ローテーターカフ損傷に対する手術やリハビリテーションに関心のある医療従事者にも有用です。
- 棘上筋と棘下筋の上腕骨付着部の詳細な解剖学的データが提示され、手術や修復における精度が向上する可能性がある。
- ローテーターカフ修復における「フットプリント再建」の重要性が強調され、手術の成功率を向上させるためのガイドラインが得られる。
- 解剖学的知見は主に死体標本に基づいているため、生体への応用には限界がある可能性がある。
- 実際の臨床現場での適用には、さらなる検証が必要。
Background
ローテーターカフ損傷は、加齢や外傷により高齢者に頻繁に発生し、肩の機能障害を引き起こします。これらの損傷は、術前に超音波やMRIを用いて評価され、関節鏡検査を通じて診断されます。しかし、棘上筋と棘下筋の上腕骨への付着に関する既存の解剖学的理解は十分ではなく、特に筋萎縮の原因となる棘下筋の関与については詳細が不足しています。本研究では、ローテーターカフの付着部(フットプリント)の解剖学的詳細を再調査し、損傷部位の正確な特定と手術修復のための指針を提供することを目的としています。
– 棘上筋と棘下筋の筋繊維が融合し、付着部を明確に分けることが困難であることを指摘しました(Clark JM et al.,1992)。
– *棘上筋と棘下筋の重なり部分が存在することを報告し、従来の解剖学的理解に対して修正を提案しました(Minagawa H et al.,1998)。
Method
本研究は、64人の日本人ドナー(男性25人、女性39人)から提供された128肩を対象に行われました。これらの肩は8%のホルマリンで固定され、肩甲骨全体と上腕骨および鎖骨の近位1/3が切除されました。肩甲上腕靱帯とそれに覆われた結合組織を慎重に除去し、棘上筋および棘下筋の上腕骨付着部を観察しました。さらに、26肩を対象に、両筋のフットプリントの最大長と幅を計測しました。
Results
棘上筋は主に上腕骨大結節の最上部の前内側に付着し、そのフットプリントは三角形で、最大の前後幅は12.6mm、最大の内外長は6.9mmでした。棘下筋は、大結節の中部全体と最上部の半分を占めており、そのフットプリントは台形で、最大前後幅は32.7mm、最大内外長は10.2mmでした。また、全肩の21%で、棘上筋の前部が小結節にも付着していることが確認されました。
Conculusion
本研究により、従来の理解よりも棘下筋のフットプリントが広範囲にわたっていることが明らかになり、ローテーターカフ損傷が棘上筋だけでなく、棘下筋も大きく関与している可能性が高いことが示されました。これにより、ローテーターカフ修復手術において、棘上筋と棘下筋の両方を考慮した「フットプリント再建」が重要であると結論付けられます。
限界点
- 解剖学的研究は死体を対象としており、生体における実際の応用には限界がある。
- 症例数が限られており、他の人種や年齢層への適用にはさらなる検証が必要。
読者が得られるポイント
- ローテーターカフ損傷の正確な解剖学的理解の重要性。
- 棘上筋と棘下筋の両方を考慮した修復手術の必要性。
- フットプリント再建の適切なガイドライン。
論文の詳細が気になる方、もっと詳しく知りたい方は、是非論文を一読ください。
論文情報
Mochizuki T, Sugaya H, Uomizu M, Maeda K, Matsuki K, Sekiya I, Muneta T, Akita K. Humeral insertion of the supraspinatus and infraspinatus: New anatomical findings regarding the footprint of the rotator cuff. J Bone Joint Surg Am. 2008;90:962-969.
DOI: 10.2106/JBJS.G.00427引用論文
Clark JM, Harryman DT 2nd. Tendons, ligaments, and capsule of the rotator cuff. Gross and microscopic anatomy. J Bone Joint Surg Am. 1992;74:713-25.
Minagawa H, Itoi E, Konno N, Kido T, Sano A, Urayama M, Sato K. Humeral attachment of the supraspinatus and infraspinatus tendons: an anatomic study. Arthroscopy. 1998;14:302-6.
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