是非こんな方に読んでほしい
肩関節の機能障害や姿勢に関連する問題に取り組む理学療法士、整形外科医、スポーツ医学の専門家。また、肩甲骨の運動制御に関心があり、姿勢が運動に与える影響を理解したい医療従事者に向けた内容です。
- 肩甲骨の動きが座位姿勢によって大きく変わることが確認され、特に前屈姿勢が肩関節の運動に悪影響を与える可能性が示唆された。
- 電磁トラッキングセンサーを用いた新しい手法により、動的な肩甲骨運動を詳細に評価でき、臨床現場での応用が期待できる。
- 座位姿勢が肩関節に与える影響のメカニズムが完全には解明されておらず、さらなる研究が必要。
- 皮膚に装着したセンサーによる誤差が、特に高い角度の肩甲骨運動で発生する可能性がある。
Background
肩関節は非常に複雑な構造であり、肩甲骨、鎖骨、胸骨、上腕骨などが連動して機能しています。肩甲骨の運動は、肩関節の動作や安定性に重要な役割を果たしていますが、座位姿勢が肩甲骨運動にどのような影響を与えるかについては、十分に研究されていません。本研究では、電磁トラッキングセンサーを用いて、正常な成人の異なる座位姿勢が肩甲骨の3次元運動に及ぼす影響を調査しました。
– 肩甲骨と上腕骨の運動比率に関して、1:2という理論的な関係を報告しました(Inman VT et al.,1996)。
– 前かがみの姿勢が肩甲骨の上方回旋と前方傾斜を引き起こすことを発見しました(Kebaetse M et al.,1999)。
Method
本研究では、16名(12名の女性と4名の男性、平均年齢21.6歳)の健常成人を対象に、皮膚に取り付けた電磁トラッキングセンサーを用いて肩甲骨の運動を計測しました。被験者は、背筋を伸ばした「直立座位」と前かがみの「猫背座位」の2つの異なる座位姿勢で肩の挙上運動を行いました。各姿勢での肩甲骨の後傾、外旋、上方回旋の動きを3次元的に計測し、運動の違いを評価しました。
Results
直立座位と猫背座位の両方で、肩の挙上運動中に肩甲骨の後傾、外旋、上方回旋が観察されました。しかし、猫背座位では肩甲骨の後傾と外旋が有意に減少し、上方回旋の大きさには有意な変化が見られませんでした。これは、前かがみの姿勢が肩甲骨の運動を抑制し、肩関節にかかるストレスを増加させる可能性を示唆しています。
Conculusion
猫背座位などの前屈姿勢は、肩甲骨の正常な運動パターンを妨げ、肩関節の障害や疼痛のリスクを高める可能性があります。本研究は、座位姿勢が肩甲骨運動に与える影響を明らかにし、理学療法や運動療法において姿勢の重要性を強調しています。特に、肩甲骨の運動制御を改善するためには、正しい姿勢を維持することが重要であることが示唆されました。
限界点
- 被験者が若年の健康成人に限定されているため、高齢者や肩に問題を抱える患者への適用には限界がある。
- データ収集が肩の挙上運動に限定されており、他の動作における肩甲骨運動についてはさらなる研究が必要。
読者が得られるポイント
- 猫背などの前屈姿勢が肩甲骨運動に与える悪影響の理解。
- 肩関節のリハビリテーションや運動療法における正しい姿勢の重要性。
- 皮膚に取り付けた電磁トラッキングセンサーによる肩甲骨運動の評価手法の有用性。
論文の詳細が気になる方、もっと詳しく知りたい方は、是非論文を一読ください。
論文情報
Finley MA, Lee RY. Effect of Sitting Posture on 3-Dimensional Scapular Kinematics Measured by Skin-Mounted Electromagnetic Tracking Sensors. Arch Phys Med Rehabil. 2003;84:563-568.
DOI: 10.1053/apmr.2003.5008引用論文
Inman VT, Saunders JB, Abbott LC. Observations on the function of the shoulder joint. Clin Orthop Relat Res. 1996;330:3-12.
Kebaetse M, McClure P, Pratt NA. Thoracic position effect on shoulder range of motion, strength, and three-dimensional scapular kinematics. Arch Phys Med Rehabil. 1999;80:945-50.
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