(#36)肩峰下インピンジメント症候群と胸椎の可動域制限の併発~超音波を用いた運動解析による前向き研究~

バイオメカニクス
(#36)肩峰下インピンジメント症候群と胸椎の可動域制限の併発~超音波を用いた運動解析による前向き研究~
この研究は、肩の痛みや可動域制限に関心を持つ医療従事者、特に整形外科医や理学療法士に向けています。また、姿勢や運動機能に関連する疾患の診断や治療に携わる専門家、肩峰下インピンジメント症候群の診断と治療に関心のある方に有益です。

 

博士

是非こんな方に読んでほしい

この研究は、肩の痛みや可動域制限に関心を持つ医療従事者、特に整形外科医や理学療法士に向けています。また、姿勢や運動機能に関連する疾患の診断や治療に携わる専門家、肩峰下インピンジメント症候群の診断と治療に関心のある方に有益です。

 

論文内の肯定的な意見
  • 肩峰下インピンジメント症候群患者における胸椎の可動域制限を客観的に示すことができた。
  • 超音波を用いた運動解析は、有用で信頼性の高い方法であり、臨床的に応用できる可能性がある。
  • 結果は、肩峰下インピンジメント症候群の診断および治療において、胸椎の可動性が考慮されるべきことを示唆している。

 

論文内の否定的な意見
  • 本研究では、超音波解析の設定や手法の複雑さが実際の臨床での応用に制約を与える可能性がある。
  • Ott’signと超音波解析との間の相関は弱く、Ott’signが胸椎の可動域を評価する正確な指標ではない可能性がある。
  • 胸椎の可動域制限がインピンジメント症候群の原因か結果かを解明することはできなかった。

 

論文の要約

Background

肩峰下インピンジメント症候群は、肩の可動域や機能に制限をもたらす一般的な疾患です。過去の研究では、胸椎の可動域制限が肩峰下インピンジメント症候群と関連していることが示唆されていますが、運動解析による詳細なデータは不足していました。本研究は、超音波を用いた運動解析を通じて、肩峰下インピンジメント症候群患者における胸椎の可動域制限を明確にすることを目的としています。

 

【過去の報告】
– 肩峰下インピンジメント症候群の概念を提唱し、肩関節の狭窄による痛みを説明した(Neer CS.,1972)。
– 肩峰下インピンジメントと胸椎の可動性との関連性が示唆されていますが、信頼性のある運動解析手法は不足していました。

 

Method

本研究は、肩峰下インピンジメント症候群患者39名と健常な対照群39名を対象とした前向き研究です。両群は年齢と性別でマッチングされ、超音波を用いて胸椎の可動域を測定しました。除外基準には、肩関節の他の病変や、全身性リウマチ疾患、妊娠などが含まれます。

 

Results

超音波解析により、肩峰下インピンジメント症候群患者は対照群に比べて胸椎の可動域が有意に制限されていることが確認されました。特に、T5-8およびT9-12の胸椎セグメントで顕著な差異が見られました。また、Ott’signによる評価結果は、超音波解析との相関が弱く、胸椎の可動域制限を正確に評価するには不十分であることが示されました。

– 静的胸椎後弯:
静的な姿勢での胸椎後弯(T1-12)に関しては、研究群と対照群の間で有意な差は認められませんでした(研究群: 平均45.9°、対照群: 平均44.8°、p = 0.66)。

– 全体的な可動域:
胸椎全体の機能的可動域は、研究群で平均28.0°、対照群で34.6°であり、統計的に有意な差が確認されました(p = 0.01, CI: 1.5–11.7)。これは、研究群の可動域が対照群に比べて約19.9%制限されていることを示します。

各セグメントの可動域:
T1-4セグメントでは有意な差はありませんでしたが(研究群: 6.3°、対照群: 8.0°、p = 0.20)、T5-8セグメントおよびT9-12セグメントでは有意な可動域制限が見られました。

– T5-8セグメント:
研究群は平均7.8°、対照群は平均9.9°で、2.1°の差がありました(p = 0.03, CI: 0.03-4.2)。

– T9-12セグメント:
研究群は平均14.0°、対照群は16.7°で、2.7°の差がありました(p = 0.02, CI: 0.5-4.9)。

– DASHスコア:
肩の機能障害を評価するDASHスコアでは、研究群の平均スコアは34.2ポイント、対照群は1.4ポイントであり、非常に大きな差が確認されました(p < 0.001)。高いDASHスコアは肩の機能障害が大きいことを示しています。

– Constantスコア:
肩の機能を評価するConstantスコアでは、研究群の平均スコアは35.1ポイント、対照群は85.5ポイントで、こちらも有意な差が認められました(p < 0.001)。高いConstantスコアは肩の機能が良好であることを示しています。

Ott’sign
胸椎の屈曲・伸展におけるOtt’signの結果は、研究群と対照群の間で有意に異なり(研究群: 平均3.7cm、対照群: 平均4.6cm、p = 0.0018)、胸椎の可動域制限を反映していました。しかし、Ott’signと超音波解析の相関は弱く(屈曲: r = 0.36、伸展: r = 0.43)、オット徴候は精密な可動域評価には適していない可能性があります。

 

Conculusion

本研究の結果、肩峰下インピンジメント症候群患者において胸椎の可動域が有意に制限されていることが明らかになりました。特に、T5-8およびT9-12セグメントの可動性が顕著に低下していることが確認されました。このことは、肩峰下インピンジメント症候群の治療や診断において、胸椎の可動域を考慮する必要があることを示唆しています。

また、Ott’signは胸椎の可動域制限を示す指標としては有用ですが、超音波解析に比べて精度が低く、臨床的な利用には限界があります。超音波を用いた運動解析は、胸椎の可動性を正確に評価できる信頼性の高い手法であり、今後の診断および治療の補助として有用性が期待されます。

ただし、本研究では胸椎の可動域制限が肩峰下インピンジメント症候群の原因なのか、あるいは結果なのかを明確にすることはできませんでした。今後の研究において、胸椎の可動性改善が肩峰下インピンジメント症候群の治療に与える影響を検討することが求められます。

 

 

博士

限界点

  • 超音波解析のセッティングや手法が臨床での実用性に欠ける可能性がある。
  • 肩峰下インピンジメント症候群が胸椎の可動域制限を引き起こすのか、その逆なのかを解明できていない。
  • Ott’signと超音波解析との相関が弱く、Ott’signの有用性に疑問が残る。

 

博士

読者が得られるポイント

  • 肩峰下インピンジメント症候群患者では、胸椎の可動域制限が重要な要素となり得る。
  • 胸椎の可動性を評価し、治療に組み込むことが症状改善に役立つ可能性がある。
  • 肩峰下インピンジメント症候群と胸椎の可動域との関連性について、さらなる研究が必要。

 

 

ブログの要約には間違いや個人的な解釈が含まれる可能性があります。
論文の詳細が気になる方、もっと詳しく知りたい方は、是非論文を一読ください。

論文情報
Theisen C, van Wagensveld A, Timmesfeld N, Efe T, Heyse TJ, Fuchs-Winkelmann S, Schofer MD. Co-occurrence of outlet impingement syndrome of the shoulder and restricted range of motion in the thoracic spine: a prospective study with ultrasound-based motion analysis. BMC Musculoskelet Disord. 2010;11:135.
DOI: 10.1186/1471-2474-11-135

引用論文
Neer CS. Anterior acromioplasty for the chronic impingement syndrome in the shoulder: a preliminary report. J Bone Joint Surg Am. 1972;54(1):41-50.

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