(#64-3)椎間孔神経根病変症例において、臨床症状として100%の頻度で見られたものは?

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Kunogiらの研究の対象となった椎間孔神経根病変26症例において、

下肢痛(Leg pain)は全員(100%)に認められた最も普遍的な症状です。

 

 

下肢痛の現れ方と特徴

下肢痛は全症例に見られましたが、その現れ方には以下のような特徴があります。

 

  • 安静時痛
    26名中16名(61.5%)が、動いていなくても痛みを感じていました。

 

  • 動作による悪化
    特に腰椎の後屈(伸展)によって痛みが強まるケースが多く(65.4%)、
    前屈で痛むケース(19.2%)よりも圧倒的に多いのが特徴です。

 

  • Kemp徴候(Kemp’s sign)
    腰を後ろや斜め後ろに反らすことで痛みが誘発される「Kemp徴候」は、22名(84.6%)と非常に高い頻度で認められました。

 

 

その他の重要な臨床症状

下肢痛以外にも、椎間孔内外の神経根圧迫に特有の症状が報告されています。

 

  • 間欠性跛行(歩行時の痛み)
    長く歩くと下肢に痛みが出て歩けなくなる症状が、22名(84.6%)に見られました。

 

  • 神経緊張テストの結果
    通常の脊柱管内の病変(ヘルニアなど)とは異なる傾向があります。

    • SLRテスト(下肢伸展挙上テスト)
      多くの症例で陰性、または70度以上まで上がる「高角度での陽性」でした。
    • FNST(大腿神経伸展テスト)
      特にL4神経根が関与する症例(L4-5レベルの病変)では、13例中11例(約85%)と非常に高い確率で陽性を示しました。

 

 

 

臨床的な意義

これらの症状の組み合わせは、診断において非常に重要です。

  • 診断のヒント
    典型的な「脊柱管狭窄症」や「中心性ヘルニア」ではSLRテストが低い角度で陽性になることが多いですが、椎間孔内外の圧迫では「SLRは陰性なのに、後屈(Kemp徴候)や歩行で強い下肢痛が出る」という乖離(かいり)が見られることがあります。

 

  • レベル診断
    論文では、L4-5レベルの病変かL5-S1レベルの病変かによって、FNSTの陽性率が大きく異なる(L4-5では高く、L5-S1では低い)ことが示されており、どの神経がやられているかを判断する指標となります。

 

このように、「100%の下肢痛」をベースとしつつ、「後屈による悪化」や「神経緊張テストの特殊な反応」を組み合わせることで、見逃されやすい椎間孔内外の病変を特定する手がかりとしています。

 

 

 

 

 

博士

【臨床所見のヒント】

・L4神経根の病変でFNSTが陽性になりやすい?

・L5神経根の病変で特徴的な神経緊張テストは?

・Kemp徴候が8割以上の症例で陽性?

・SLRテストが陰性でも神経根圧迫が疑われるケースとは?

 

 

 

L4神経根の病変でFNSTが陽性になりやすい?

 

Kunogiらの研究データに基づくと、L4神経根の病変においてFNST(大腿神経伸展テスト)が陽性になりやすい理由は、L4神経根が侵されることで大腿前面から膝にかけての痛み(放散痛)が生じるという臨床的特徴と深く関わっています。

 

1)統計的な裏付け

本研究の対象となった26症例の病変レベルによるFNSTの陽性率には極めて顕著な差が出ています。

  • L4神経根(L4-5レベル)の病変:13例中11例(約85%)が陽性
  • L5神経根(L5-S1レベル)の病変:13例中0例(0%)が陽性

この極端な差は、FNSTがL4神経根の障害を特定するための非常に感度の高いテストであることを示しています。

 

2)症状の出現部位との関係

L4神経根が圧迫されると、解剖学的に大腿神経の領域に症状が出ます。

実際の症例報告でも、L4神経根の病変を持つ患者は、「左大腿の前部から膝にかけての痛み」を訴えていたことが記されています。

FNSTは大腿神経を伸展(ストレッチ)させる手技であるため、この領域を支配しているL4神経根に圧迫や炎症がある場合、テストによって痛みが誘発されやすくなります。

 

3)他のテストとの対比(SLRテストとの違い)

通常の腰部脊柱管狭窄症やヘルニアでよく用いられるSLR(下肢伸展挙上)テストは、主にL5やS1神経根の指標となります。

 

  • 本論文のデータでも、L5病変ではSLRテストが陽性(70度以下)になることがありますが、L4病変ではSLRは陰性、もしくは高角度でのみ陽性になる傾向があります。

 

  • つまり、「SLRは陰性だが、FNSTが陽性」という組み合わせは、病変がL5ではなくL4神経根にあることを強く示唆する重要な診断材料となります。

 

以上のことから、L4神経根の病変は、大腿前面への痛みという特徴的な症状を引き起こすため、その神経を物理的に刺激するFNSTが高い確率で陽性反応を示すのです。

 

 

 

 

 

L5神経根の病変で特徴的な神経緊張テストは?

 

Kunogiらの研究では、L5神経根の病変(L5-S1レベルの椎間孔内外での圧迫)において特徴的なのは、「Kemp徴候が高い確率で陽性になる一方で、SLRテストやFNST(大腿神経伸展テスト)では典型的な陽性反応が出にくい」という点です。

 

具体的には、L5神経根の病変が確認された13症例において、以下のような結果が示されています。

1)Kemp徴候:極めて高い陽性率

L5神経根の病変においても、Kemp徴候は13例中11例(84.6%)と非常に高い頻度で陽性となります。

これはL4神経根の症例(84.6%)と全く同じ頻度であり、レベルに関わらず椎間孔部での神経根圧迫を疑う非常に重要な指標です。

 

 

2)SLRテスト:陰性または高角度でのみ陽性

脊柱管内のヘルニアなどではL5神経根障害でSLRが陽性になるのが一般的ですが、椎間孔内外の圧迫の場合、反応が異なります。

 

  • 陰性、または70度以上で陽性
    13例中11例(84.6%)。

 

  • 70度未満で陽性
    わずか2例(15.4%)。
    このように、足がしっかり上がってしまう(SLR陰性)にもかかわらず、実際には強い神経根圧迫が存在しているのがL5症例の特徴です。

 

 

3)FNST:陽性率0%(L4との鑑別点)

L5神経根の病変では、FNSTは13例中0例(0%)、つまり全例で陰性でした。

前述の通り、L4神経根の病変ではFNSTが約85%の確率で陽性となるため、「FNSTが陰性で、かつKemp徴候が陽性」であれば、病変のレベルがL4ではなくL5神経根である可能性が高いと判断する材料になります。

 

 

4)その他の臨床所見
  • 間欠性跛行
    13例中10例(76.9%)に認められました。

 

  • 安静時痛
    13例中8例(61.5%)に認められました。

 

 

5)まとめ

L5神経根の椎間孔内外病変において「これさえやれば診断できる」という特定の緊張テストはFNSTほど明確ではありませんが、

「SLRが陰性なのに、Kemp徴候が陽性で、かつ歩行時や安静時に強い痛みがある」という組み合わせ自体が、L5神経根の椎間孔内外での絞扼を疑う最大の特徴といえます。

 

 

 

 

 

Kemp徴候が8割以上の症例で陽性?

 

Kunogiらの研究の26症例において、Kemp徴候が84.6%(22例)という高い頻度で陽性となった理由は、この疾患が「椎間孔」という非常に狭い空間での神経圧迫であるという解剖学的な特徴に深く関わっています。

 

1)椎間孔の空間をさらに狭める動作であるため

Kemp徴候とは、腰椎を後屈(後ろに反らす)させ、さらに斜め後ろ(患側)へ曲げる動作を指します。

  • 解剖学的変化
    腰を後ろに反らしたり横に倒したりすると、解剖学的に椎間孔(神経の出口)のスペースがさらに狭くなります

 

  • 圧迫の増強
    もともと椎間孔内やその外側で神経が圧迫されている患者にとって、この動作は「すでに狭い出口をさらに締め上げる」ことになります。
    その結果、下肢への放散痛が強く誘発されるため、高い陽性率を示します。

 

 

2)圧迫の形態(特に上下方向の圧迫)との関係

Kunogiらの研究では、多くの症例で椎間孔の縦径(高さ)が減少する「頭側尾側絞扼(Cephalo-Caudal Entrapment)」が認められています。

  • 動作による影響
    腰を反らす動作は、椎体間の距離をさらに縮める方向に力が働くため、上下から挟み込まれている神経根への刺激が極めて強くなります。
    対照的に、腰を前に曲げる「前屈」では椎間孔が広がるため、痛みが悪化する症例は19.2%(5例)と少数に留まっています。

 

 

3)SLRテスト(坐骨神経緊張テスト)との対照性

椎間孔での圧迫は、脊柱管内の圧迫(一般的なヘルニアなど)とは異なる反応を示します。

  • SLRの低さ
    本研究の症例では、SLRテスト(脚を上げるテスト)が陰性、もしくは70度以上の高角度でしか陽性にならないケースが大部分でした。

 

  • 診断的価値
    神経を縦に引っ張るSLRでは反応が出にくい一方で、「空間を狭めて直接押しつぶす」Kemp徴候の方が、椎間孔部での病変をより敏感に捉えられるため、8割以上の症例で陽性という結果につながっています。

 

このように、「椎間孔という狭い場所の病変であること」「Kemp徴候がその場所を最も狭くする動作であること」が一致しているため、これほど高い頻度で陽性反応が見られるのです。

 

 

 

 

 

SLRテストが陰性でも神経根圧迫が疑われるケースとは?

 

Kunogiらの研究によると、SLRテスト(下肢伸展挙上テスト)が陰性、あるいは70度以上の高角度でしか陽性にならない場合でも、「椎間孔内(intraforaminal)」または「椎間孔外(extraforaminal)」での神経根圧迫が強く疑われます。

一般的な脊柱管内の病変(中央のヘルニアなど)ではSLRテストが陽性になりやすいのに対し、本研究の対象となった椎間孔内外の圧迫症例26例では、SLRテストが70度未満で陽性となったのはわずか11.5%(3例)に過ぎませんでした。

 

 

SLRが陰性でも神経根圧迫を疑うべき具体的なケースと指標は以下の通りです。

 

1)L4神経根の病変(L4-5レベルの圧迫)

L4神経根が椎間孔内外で圧迫されている場合、SLRテストよりもFNST(大腿神経伸展テスト)が極めて重要な指標となります。

  • 本研究のL4神経根病変(13例)のうち、11例(約85%)でFNSTが陽性となっていました。
  • 患者は、大腿前面から膝にかけての痛みを訴えることが特徴です。

 

 

)腰椎の後屈(伸展)で症状が悪化する場合

腰を後ろに反らしたり、斜め後ろに捻ったりする動作で下肢痛が強まる場合は、椎間孔での圧迫の可能性が高まります。

  • Kemp徴候
    26名中22名(84.6%)と、非常に高い確率で陽性を示します。

 

  • 後屈による悪化
    17名(65.4%)の患者が、腰を反らす動作で痛みが強まると回答しています。

 

 

3)間欠性跛行(歩行時の痛み)がある場合

歩行中に下肢の痛みやしびれが生じ、休むと改善する「間欠性跛行」は、脊柱管狭窄症だけでなく椎間孔部の圧迫でも頻繁に見られます。

  • Kunogiらの研究では、22名(84.6%)の症例で間欠性跛行が認められました。

 

 

4)安静時にも下肢痛がある場合

椎間孔内外の圧迫では、動いていない時でも痛みが続くケースが少なくありません。

  • Kunogiらの研究では、16名(61.5%)が安静時痛(Leg pain at rest)を訴えていました。

 

 

5)まとめ:診断のポイント

SLRテストが陰性であっても、以下の臨床所見が組み合わさる場合は、椎間孔内外での神経根圧迫を疑い、MRIや選択的神経根造影などの精密検査を行うことが推奨されています。

 

  • FNSTが陽性(特にL4領域の症状がある場合)
  • Kemp徴候が陽性
  • 腰椎の後屈で痛みが誘発される
  • 間欠性跛行がある

 

このように、SLRテストだけに頼らず、他の神経緊張テストや動作による症状の変化を総合的に評価することが、見逃されやすい椎間孔部病変の診断には不可欠です。

 

 

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