是非こんな方に読んでほしい
この記事は、スポーツ医学、リハビリテーション、競技ダイビングに従事する医療従事者やトレーナーに向けた内容です。特に腰痛(LBP)に悩むジュニアダイバーの予防やリハビリテーションに関心のある方にとって有益な情報を提供します。また、ジュニアスポーツ選手のリスク管理や身体的特徴を理解し、適切なケアを行いたいと考える方にも有用です。
- 肩の柔軟性と年齢が、エリートジュニアダイバーにおける腰痛予防に重要であることが示されました。
- 腰痛予防に対する具体的な対策(肩の柔軟性向上など)が提示されており、臨床実践での応用が可能です。
- 女性ダイバーにおける肩の柔軟性の影響は確認されず、性別による違いが十分に考慮されていない可能性があります。
- 参加者数の限界:研究対象が少数であるため、結果の一般化には限界がある。
Background
競技ダイビングでは、選手がプラットフォームやスプリングボードから飛び込み、回転やツイストを行った後に水に入ります。この際、特に腰部に大きな物理的ストレスがかかり、腰痛(LBP)が発生しやすいことが知られています。
過去の研究では、13歳から17歳のジュニアダイバーにおいて、LBPの発生率が高いことが報告されています (38.4%)。
・エリート若手ダイバーにおける腰痛と脊椎の退行性異常に関する研究。
Barantoらは、若いダイバーにおいて、成長スパート期に腰痛の最初のエピソードが発生することを報告しました。これは、成長スパートが腰部にとって非常に脆弱な時期であり、腰痛の予防が重要であることを示しています(Baranto A et al.,2006)。
・日本のエリートジュニアダイバーにおける腰痛の発生率を調査した結果、13~17歳のダイバーで腰痛の発生率が高いこと(38.4%)を確認しました(Narita T et al.,2011)。・スポーツ傷害予防の4ステップモデルを提案しました。これには、傷害率と重症度の調査、傷害原因とリスク要因の特定、予防策の導入、そして予防策の効果を評価するプロセスが含まれます(Van Mechelen W et al.,1992)。
・スポーツ関連傷害のリスク要因に関する研究が少なく、エリートアスリートに対するリスク要因、メカニズム、予防策を明らかにする必要があることを指摘しました(Steffen K, Engebretsen L.,2010)。
Method
・対象者
日本のエリートジュニアダイバー83名(男性42名、女性41名)が参加。
・評価方法
腰痛の評価は、問診、理学療法士による身体検査、およびフィットネステストによって行われました。身体的特徴(身長、体重、BMI、筋力、柔軟性など)とダイビングスキルも評価され、腰痛と関連する要因をロジスティック回帰分析で抽出しました。
Results
・腰痛の発生率
全体で83名中31名(37.3%)が腰痛を報告しました。特に、男性では42名中18名、女性では41名中13名が腰痛を経験しており、腰椎の屈曲および伸展中に痛みを感じる例が多い結果となりました。動作中に痛みを感じた26名(83.9%)のうち57.7%が腰椎の伸展中に痛みを経験しました。
・男性ダイバーにおける要因
【年齢】
腰痛の発生率は年齢と逆相関があり、年齢が若いほど腰痛リスクが高いことが明らかになりました(OR 0.441; 95% CI 0.239–0.814)。年齢が1歳増えるごとに、腰痛リスクが低下する傾向が見られました。
【肩の柔軟性】
肩回旋幅も腰痛に関連しており、柔軟性が高いほど腰痛リスクが低下しました(OR 0.919; 95% CI 0.851–0.992)。腰痛グループの肩回旋幅は平均52.2 cmで、痛みのないグループの57.2 cmより狭かったです。
・女性ダイバーにおける要因
【年齢】
女性ダイバーにおいても、年齢が唯一の腰痛リスク要因であり、若い選手ほどリスクが高いことが確認されました(OR 0.536; 95% CI 0.335–0.856)。肩の柔軟性は女性において腰痛リスクに関連していませんでした。
Conculusion
男性ジュニアダイバーにおいて、年齢と肩の柔軟性が腰痛予防に重要な要因であることが示されました。特に、肩の柔軟性が低い場合、水へのエントリー時に腰椎に過度な伸展がかかり、腰痛のリスクが増加することが明らかになりました。男性選手において、肩の柔軟性を改善することが腰痛の予防に有効です。
女性ジュニアダイバーでは、年齢のみが腰痛のリスク要因であり、肩の柔軟性は影響を与えませんでした。成長過程にある若年女性選手は特に腰痛のリスクが高く、年齢を重ねることでリスクが低下することが確認されました。
臨床的意義
この研究は、エリートジュニアダイバーの腰痛リスク要因を明らかにし、特に男性選手において肩の柔軟性を高めることが腰痛予防に重要であることを示しています。また、年齢が若い選手は、成長期における特定のケアが求められることも示唆されています。
この研究の結果、エリートジュニアダイバーにおける腰痛の予防には、肩の柔軟性と年齢が重要な要因であることが確認されました。特に、男性選手においては肩の柔軟性が腰痛予防に寄与する可能性が高く、肩の柔軟性を高めることが腰痛の発生を抑えるための一つの戦略として推奨されます。また、年齢が若い選手は成長過程において腰痛リスクが高まるため、特に注意が必要です
限界点
- 研究参加者数が少ないため、結果を他の集団に一般化する際には慎重な解釈が必要です。
- 横断的な研究であり、長期的なフォローアップが行われていないため、腰痛の長期的な影響や予防策の有効性についてはさらなる研究が必要です。
読者が得られるポイント
- ジュニアダイバーにおける腰痛リスクの予防に、肩の柔軟性の向上が有効であることが示唆されている。
- 腰痛のリスクが高い年齢層や身体的特徴を特定し、早期の介入が推奨される。
論文の詳細が気になる方、もっと詳しく知りたい方は、是非論文を一読ください。
論文情報
Narita T, Kaneoka K, Takemura M, Sakata Y, Nomura T, Miyakawa S. Critical factors for the prevention of low back pain in elite junior divers. Br J Sports Med. 2014;48:919-923.
DOI: 10.1136/bjsports-2012-091875
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