
是非こんな方に読んでほしい
この論文は、肩の機能障害に対する理解を深めたい整形外科医、理学療法士、スポーツ医学の専門家に向けられています。特に、腱板断裂の影響や、患者の肩の可動域喪失を適切に評価し、治療を提供する必要がある臨床医にとって有益です。また、肩関節の治療に興味を持つ研究者にも適しています。
- 腱板断裂パターンに基づく分類は、肩の可動域障害を理解するために有効である。
- 関節可動域を維持するために、腱板の一部修復や機能保存が役立つ可能性が示された。
- 部分修復が断裂パターンによっては有効で、特に3筋断裂の進行を防ぐために役立つ。
- 筋肉の脂肪浸潤が進行した場合、肩の機能回復は限られる。
- 肩関節の偽性麻痺(pseudoparalysis)が起こると、全体的な機能回復が難しい。
Background
大規模な慢性腱板断裂は、肩の痛みや機能障害を引き起こすが、その影響は患者ごとに異なる。腱板断裂は通常、断裂の大きさに基づいて分類されるが、臨床症状と予後に影響を与えるのは断裂の位置やパターンかもしれない。この研究の目的は、大規模な慢性腱板断裂のパターンと、肩の可動域にどのように影響を与えるかを評価することです。
腱板断裂は、5cm以上の大きさで「大規模断裂」と定義されることが一般的です。大規模な断裂では、肩関節の運動機能が顕著に低下することが報告されています(Cofield RH.,1985)2つ以上の腱が断裂している場合、大規模な断裂と定義され、症状の進行により肩関節機能に大きく影響を与えることが確認されています。
大規模な腱板断裂の結果、関節可動域が制限されることが確認されました。特に、肩甲下筋や棘下筋の断裂が進行すると、可動域の制限が強くなることが報告されています(Gerber C et al.,2000)
回旋腱板断裂患者では、筋肉の脂肪浸潤が進行することで、修復が困難になることが示されています。Goutallier分類は、脂肪浸潤の程度を評価するために広く使用されています(Goutallier D et al.,1994)
Method
・対象
2008年3月から2011年4月の間に、肩関節専門クリニックで評価された腱板断裂患者のうち、2つ以上の腱が断裂し、脂肪浸潤がGoutallier基準で3以上の患者100名(男性50名、女性50名、平均年齢67.7歳)を対象としました。
・評価方法
腱板断裂パターンに基づいて、患者は5つのグループに分けられました。各患者の肩関節の前方挙上、外旋、内旋をゴニオメーターを使用して測定し、偽麻痺の有無も評価しました。
タイプA:棘上筋、肩甲下筋上部の断裂
タイプB:棘上筋、肩甲下筋全体の断裂
タイプC:棘上筋、棘下筋、肩甲下筋上部の断裂
タイプD:棘上筋、棘下筋の断裂
タイプE:棘上筋、棘下筋、小円筋の断裂
Results
・偽性麻痺の発生率
大規模な慢性腱板断裂を持つ患者のうち、80%が肩甲下筋全体と棘上筋の断裂を持つ「タイプB」で偽性麻痺(pseudoparalysis)を発症しました。45%の患者が棘上筋、棘下筋、肩甲下筋上部が断裂している「タイプC」で偽性麻痺を発症し、機能的に重大な影響を受けていることが確認されました(P < .05)。
・可動域
断裂パターンと肩の挙上可動域との関係を調べた結果、肩甲下筋の全体的な断裂がある場合、肩の挙上角度は83°まで制限され、これは偽性麻痺のリスクを大幅に増加させる要因とされました。また、外旋可動域は「タイプE」で最も低く、外転時の外旋も著しく制限されており、外旋角度の喪失が確認されました。
タイプ別の挙上角度のデータでは、以下のように挙上可動域が異なりました(P < .01):
– タイプA:178°
– タイプB:83°
– タイプC:116°
– タイプD:176°
– タイプE:141°
・内旋の制限
内旋の可動域が最も制限されたのは、「タイプA」(棘上筋と肩甲下筋上部の断裂)と「タイプB」(棘上筋、肩甲下筋全体の断裂)で、これは特に棘上筋と肩甲下筋の断裂が内旋機能に大きな影響を与えることを示しています。
・外旋可動域
外旋可動域は「タイプE」(棘上筋、棘下筋、小円筋断裂)で最も低く、外転位での外旋も著しく制限されました(P < .01)。
・痛み
タイプ間において有意差はみられませんでした。
【腱板断裂のタイプ分類(本研究での分類)】
・タイプA(棘上筋と肩甲下筋上部の断裂
– このタイプでは、棘上筋および肩甲下筋上部の断裂が見られ、挙上可動域は178°とほぼ正常に保たれていました。
– 偽性麻痺は発生していません。
– 内旋可動域はやや制限されるものの、他のパターンに比べて機能は良好です。
・タイプB(棘上筋と肩甲下筋全体の断裂)
– 棘上筋と肩甲下筋全体の断裂が特徴です。
– 挙上可動域はわずか83°まで制限され、最も低い可動域を示しています。
– 偽性麻痺が発生するリスクが最も高く、患者の80%に偽麻痺が確認されました。
– 肩の機能が大幅に損なわれ、内旋も著しく制限されています。
・タイプC(棘上筋、棘下筋、肩甲下筋上部の断裂)
– 棘上筋、棘下筋、肩甲下筋の上部の断裂を持つタイプです。
– 挙上可動域は116°と、中程度の制限があります。
– 45%の患者で偽性麻痺が発生しました。
– このタイプでは、外旋機能もかなりの制限を受けます。
・タイプD(棘上筋と棘下筋の断裂)
– 棘上筋と棘下筋の断裂が見られますが、肩甲下筋は健全です。
– 挙上可動域はほぼ正常で、176°に達しました。
– 偽性麻痺は発生していません。
– このパターンでは、比較的肩の機能が維持されています。
・タイプE(棘上筋、棘下筋、小円筋の断裂)
– 棘上筋、棘下筋、小円筋の断裂が見られ、外旋可動域が最も低下します。
– 挙上可動域は141°まで制限されました。
– 33%の患者に偽性麻痺が確認され、特に外転位での外旋が著しく制限されています。
この分類は、肩の可動域と偽麻痺のリスクを理解するための有用な指標となり、治療方針の決定にも役立ちます。
Conculusion
肩甲下筋全体や3つの回旋腱板筋が機能不全になると、偽性麻痺のリスクが著しく増加することが確認されました。肩関節機能を維持するためには、脂肪浸潤が進行する前に断裂の進行を防ぎ、可能な限り腱板を修復することが重要です。偽性麻痺が確認された場合、特に若年者においては、反転型肩関節形成術などの積極的な治療を検討する必要があります。肩の可動域を維持するためには、脂肪浸潤の進行を遅らせるために早期の手術が推奨されます。

限界点
- 手術結果についてのデータが不足しており、治療の自然経過や手術の効果を完全に評価することはできません。
- 脂肪浸潤が軽度な患者についての分析が不足している。

読者が得られるポイント
- 肩甲下筋全体の機能障害や3つの腱板断裂は、偽麻痺のリスクを高める。
- 部分修復は、断裂の進行を遅らせる可能性がある。
- 偽麻痺患者の治療には反転型肩関節形成術が有効である。
論文の詳細が気になる方、もっと詳しく知りたい方は、是非論文を一読ください。
論文情報
Collin P, Matsumura N, Ladermann A, Denard PJ, Walch G. Relationship between massive chronic rotator cuff tear pattern and loss of active shoulder range of motion. J Shoulder Elbow Surg. 2013;22(6):1094-1101.
DOI: 10.1016/j.jse.2013.11.019
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