(#55)烏口上腕靱帯のストレッチング、どの肢位が最も効果的か?—凍結肩や可動域制限への科学的アプローチ

ストレッチング

 


この記事を読んでほしい方

  • 凍結肩(フローズンショルダー)に対する効果的なリハビリ方法を探している理学療法士
  • 烏口上腕靱帯(Coracohumeral Ligament:CHL)の解剖と機能を理解したい学生・若手医療従事者
  • 関節可動域制限に対して、科学的根拠に基づいたストレッチ肢位を知りたい整形外科医・作業療法士
  • 肩関節の拘縮予防や治療における靱帯の役割に興味がある臨床家

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肯定的な意見(研究による前向きな知見)

  • CHLに対する有効なストレッチ肢位が明確に定量的に示された。
  • 関節鏡での術中視野ではなく、非侵襲的な運動で靱帯に張力がかかる姿勢が再現された。
  • 最大外旋によって、CHLに有意な張力(最大7.87%)が加わることが示された。

否定的な意見(研究の限界や否定された要素)

  • 90°外転位での外旋や屈曲位での外旋では、CHLに対して有意な伸張効果が得られなかった。
  • 高齢遺体肩を用いた研究のため、若年者への応用には注意が必要。
  • トルクの定量的測定がなく、Grade IIIの動員を用いたことにばらつきの可能性あり。

論文の要約

Background(背景)

  • 肩関節の外旋可動域は日常生活動作において極めて重要。
  • フローズンショルダーや腱板断裂患者では、特に外旋制限が顕著に認められる。
  • CHLの拘縮は外旋制限、後下方移動の制限に寄与するとされている。
  • これまでCHLのストレッチに関する報告はあるが、靱帯の「伸張ストレス」を実測した研究は極めて限られていた。

Method(方法)

  • 対象:新鮮凍結遺体肩9体(男性6、女性3、平均年齢86.3歳)
  • 除外基準:変形性関節症、腱板断裂ありと判断された検体は除外
  • ストレインゲージをCHLの表層線維に設置し、様々な肩関節肢位における外旋運動時の靱帯の伸張を計測
  • 測定条件:0°挙上、30°伸展、30°伸展+内転など、9肢位において-10°〜最大外旋まで10°刻みで外旋し、靱帯のストレイン(%)を記録

Results(結果)

  • 有意にストレインが増加した肢位(P<0.05):
肢位 外旋角度 ストレイン(平均±SD)
0°挙上 40°, 50°, 最大 5.68%, 7.27%, 7.87%
30°伸展 50°, 最大 4.20%, 4.79%
30°伸展+内転 30°, 40°, 50°, 最大 4.09%, 4.67%, 4.78%, 5.05%
  • 90°外転+外旋、屈曲+外旋では有意なストレインは確認されなかった。
  • 外旋角が30°を超えると、いずれの肢位でもCHLにストレインがかかる傾向があった。

Conclusion(結論)

この研究は、肩関節の拘縮や外旋制限に大きく関与する烏口上腕靱帯(CHL)に対して、どのような肢位で最も効率的に伸張できるかを明らかにしました。特に、0°挙上位での40°以上の外旋、30°伸展位での50°以上の外旋、そして30°伸展+内転位での30°以上の外旋では、CHLに有意なストレインが加わることが示されました。これにより、これらの肢位がCHLの効果的なストレッチポジションとして、臨床での活用が期待されます。反対に、90°外転位や屈曲位での外旋ではストレインが得られなかったことから、従来のストレッチ法ではCHLへの直接的な伸張効果は限定的である可能性が示唆されました。今後、これらの知見を元に、より安全かつ効果的な理学療法プログラムの構築が求められます。


この論文の限界と読者が得られるポイント

限界点

  • 高齢者の遺体を使用しており、若年者の組織特性とは異なる可能性がある。
  • 関節可動域制限がない標本を使用しているため、拘縮肩の直接的モデルではない。
  • 測定トルクの定量化がされていない点に留意が必要。

読者が得られるポイント

  • CHLストレッチの「効果的なポジション」を解剖学的・力学的に理解できる
  • フローズンショルダーに対するストレッチングの科学的根拠を習得できる
  • 30°伸展+内転+最大外旋が最も効果的なCHLストレッチ肢位であると把握できる

CHLに有意なストレインが得られたストレッチ肢位

肢位 有効な外旋角度 ストレイン(%)
0°挙上位 40°以上 最大7.87%
30°伸展位 50°以上 最大4.79%
30°伸展+内転位 30°以上 最大5.05%

 

 

ブログの要約には間違いや個人的な解釈が含まれる可能性があります。
論文の詳細が気になる方、もっと詳しく知りたい方は、是非論文を一読ください。

【引用論文】

  • Izumi T, Aoki M, Tanaka Y, et al. Stretching positions for the coracohumeral ligament: Strain measurement during passive motion using fresh/frozen cadaver shoulders. Sports Med Arthrosc Rehabil Ther Technol. 2011;3:2. DOI:10.1186/1758-2555-3-2
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  • Kelley MJ, et al. J Orthop Sports Phys Ther. 2009;39:135–148.
  • Weppler CH, Magnusson SP. Increasing muscle extensibility: a matter of increasing length or modifying sensation? Phys Ther. 2010;90:438-449. DOI: 10.2522/ptj.20090012.

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