この記事を読んでほしい方
- 部分断裂の治療判断に迷っている整形外科医やスポーツドクター
- 関節鏡視下手術におけるSupraspinatusのFootprint構造を理解したい理学療法士
- Partial-thickness rotator cuff tear(特に関節側断裂)の深さを定量的に評価したい方
- 棘上筋腱の解剖学的情報を手術戦略に活かしたい方
肯定的な意見(本研究から得られたポジティブな知見)
- Supraspinatusの正常な腱厚(約12mm)とその挿入部の寸法が明確に数値化された。
- 関節面側の部分断裂で、露出した骨の長さが7mm以上の場合、腱厚の50%以上の損失と推定できる。
- 関節鏡下で露出骨長を測定することで、tearの深さを合理的かつ再現性高く評価できる。
否定的な意見(限界・注意点)
- 病理組織を対象とせず、正常な解剖標本(n=17)での計測に留まっている。
- Tearの大きさと臨床症状、機能障害との相関は評価されていない。
- 実際の術中測定とこの数値の整合性は今後の臨床研究を要する。
論文の要約
Background(背景)
- 部分断裂の中でも「関節面側断裂(articular-sided partial-thickness tear)」は診断と治療方針が最も議論されている領域である。
- Codman(1934)は、関節軟骨直下の腱繊維が断裂し、「rim rent(リムレント)」を形成すると報告した【引用1】。
- Ellman(1990)は、腱厚に基づいて部分断裂を3段階に分類した(Grade 1<3mm、Grade 2=3-6mm、Grade 3>6mm)【引用2】。
- これまで、tearの深さを正確に測定する方法は確立されていなかった。
Method(方法)
- 対象:48体の遺体肩関節を解剖。完全断裂または部分断裂がある検体は除外し、正常な17肩を分析(平均年齢70.2歳)。
- 計測項目:
- Supraspinatus腱の前後(AP)方向の幅:平均25mm
- Rotator interval、mid-tendon、posterior端における腱厚:それぞれ平均11.6mm、12.1mm、12.0mm
- 関節軟骨端から腱挿入部までの距離:平均1.5〜1.9mm
Results(結果)
測定部位 | 腱厚(mm) | 軟骨端〜腱挿入部距離(mm) |
---|---|---|
Rotator interval | 11.6 ± 2.4 | 1.9 ± 1.3 |
Mid-tendon | 12.1 ± 1.3 | 1.5 ± 0.8 |
Posterior | 12.0 ± 1.0 | 1.8 ± 0.9 |
- 「正常な軟骨〜腱挿入部間の距離」は1.5〜1.9mm程度。
- 露出した骨が7mm以上であれば、腱厚の50%以上が失われていると判断可能。
Conclusion(結論)
本研究は、Supraspinatusの解剖学的挿入部、いわゆる「footprint」の形態とサイズを明確に示した希少な報告であり、関節鏡視下手術で部分断裂の評価に役立つ定量的基準を提供しています。関節面側の部分断裂においては、tearの大きさを「露出した骨の長さ」として直接測定できることから、7mm以上の骨露出があれば腱厚の50%以上の損失と見なされ、EllmanのGrade 3に相当します。このようなtearは、単なるデブリードメント(掻爬)ではなく、修復対象として扱うべき可能性が高く、術中判断を客観的かつ再現性高く行う指標となります。また、計測には3mmのプローブやスパイナルニードル、またはシェーバー径を基準に用いることで簡便に対応できる点も実用的です。今後は、この定量的評価法と術後成績との相関を追跡する臨床研究が望まれます。
この論文の限界点と読者が得られるポイント
限界点
- 解剖学的研究にとどまり、病的標本ではないため臨床応用には注意が必要
- 術中の実測と一致するかの検証はなされていない
- 腱の質的変化(変性、菲薄化など)は評価対象外
読者が得られるポイント
- 関節鏡視下で部分断裂の「深さ」を定量的に判断するための基準を習得できる
- 「7mm以上の骨露出」が治療方針の転換点になり得ることを理解できる
- SupraspinatusのFootprint構造を正確にイメージできるようになる
Supraspinatus腱の挿入部構造と骨露出の診断的意義
項目 | 意味 |
---|---|
Supraspinatus腱厚(平均) | 約12mm(rotator interval部、mid-tendon部ともに) |
軟骨端〜腱挿入距離 | 約1.5mm〜1.9mm(正常時) |
露出骨距離が7mm以上 | 腱厚の約50%が失われている=修復の判断材料 |
ブログの要約には間違いや個人的な解釈が含まれる可能性があります。
論文の詳細が気になる方、もっと詳しく知りたい方は、是非論文を一読ください。
論文の詳細が気になる方、もっと詳しく知りたい方は、是非論文を一読ください。
【引用論文】
- Ruotolo C, Fow JE, Nottage WM. The supraspinatus footprint: An anatomic study of the supraspinatus insertion. Arthroscopy. 2004;20(3):246-249. doi:10.1016/j.arthro.2004.01.002
- Codman EA. The shoulder. Boston: Thomas Todd, 1934.
- Ellman H. Diagnosis and treatment of incomplete rotator cuff tears. Clin Orthop Relat Res. 1990;254:64-74.
- Weber SC. Arthroscopic debridement and acromioplasty versus mini-open repair in the treatment of significant partial-thickness rotator cuff tears. Arthroscopy. 1999;15(2):126–131.
- Weppler CH, Magnusson SP. Increasing muscle extensibility: a matter of increasing length or modifying sensation? Phys Ther. 2010;90:438-449. DOI: 10.2522/ptj.20090012.
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