Kuslichらの研究では、
筋組織を刺激した際、「穏やかな圧力では痛みが生じず、強い伸張で血管や神経由来の痛みが生じる」という反応がみられたと報告されています。
さらに、この研究において「筋肉組織そのもの」は痛みの主要な原因ではないということが示されています。
刺激の強さと反応の違い
手術中に局所麻酔下で行われた刺激テストでは、筋に対して以下の二通りの反応が観察されました。
- 穏やかな圧力(Gentle pressure)
筋肉を軽く圧迫しても、痛みが生じることは決してありませんでした。 - 強い伸張(Forceful stretching)
筋の血管や神経が通っている部位、あるいは骨への付着部を強く引き延ばした場合には、局所的な腰痛が誘発されました。
痛みの性質と「真の腰痛」との違い
筋を強く刺激した際に生じる痛みには、患者が普段感じている腰痛とは異なる特徴がありました。
- 痛みの質
この痛みは「鋭い(sharp)」と表現されました。 - 再現性の低さ
患者が日常的に経験している「深く鈍い腰痛(lumbago)」特有の痛みを再現することは、ほとんどありませんでした。 - 刺激量に比例
痛みは加えた圧力や伸張の強さに応じて変化しました。
痛みの「真の発生源」についての結論
Kuslichらは、筋への刺激で生じる痛みについて、以下のように結論づけています。
- 筋そのものは痛くない
筋束(muscle bundles)そのものには痛みを感じる機能が乏しく、肉眼的な病理的変化も見られませんでした。 - 血管と神経の関与
痛みは筋そのものではなく、そこを貫通している「血管や神経」に由来するものであると推測されています。
統計データに見る筋の感受性
193例の患者を対象としたデータでも、筋の感受性の低さが裏付けられています。
- 重大な痛み(Significant Pain):0%
- 何らかの痛み(Some Pain):41%
つまり、筋を刺激して「耐えがたいほどの激痛」を感じた患者は一人もおらず、多くの場合、無痛か、血管・神経に触れた際のわずかな不快感にとどまりました。
この発見が意味すること
この結果から、Kuslichらは以下のような重要な指摘をしています。
- 一般的な治療法への疑問
マッサージ、筋肉弛緩剤、物理療法など、筋肉をターゲットにした多くの一般的な治療法が、実は痛みの真の発生源(線維輪や神経根)を捉えていない可能性があります。 - リソースの配分
痛みと関係の薄い「筋肉、筋膜、骨」といった組織に対する治療に時間を費やしすぎているのではないか、と警鐘を鳴らしています。
要するに、「筋肉を揉んで痛いのは、筋肉そのものが原因というより、そこを通る神経や血管を刺激しているからに過ぎない」という、従来の常識を覆すような知見が示されています。



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