Kuslichらの報告において、「正常で圧迫されていない神経根」が痛みに対して完全に無感覚であるという事実は、核心的な発見の一つです。
正常な神経根の驚くべき「無感覚」
この研究では、193名という多数の症例において、局所麻酔下で覚醒状態にある患者の組織を直接刺激しました。
その結果、正常な状態の神経根には以下のような特徴があることが分かりました。
- 痛みを感じない
正常で、圧迫も伸張もされていない神経根は、痛みに対して完全に無感覚(insensitive)でした。 - 麻酔なしで操作可能
局所麻酔をかけなくても、器具で触れたり、脇に除けたり(牽引)することが可能でした。 - 強い刺激の影響
長時間にわたって強く引っ張った場合、軽い「しびれ(感覚異常)」が生じることはありましたが、重大な痛みが生じることは決してありませんでした。
数値で見る「正常」と「病態」の差
- 正常な神経根
55例テストしたうち、「重大な痛み」を訴えた人は0%でした。わずかな痛み(some pain)を感じた人もわずか11%に過ぎません。 - 圧迫された神経根
167例テストしたうち、**90%が「重大な痛み」**を訴え、その痛みは術前に経験していた坐骨神経痛と一致していました。
歴史的な裏付け
Kuslichらだけでなく、過去の研究でも同様の結果が報告されています。
例えば1958年のSmytheとWrightの研究でも、「正常な神経根にテンションをかけても痛みは生じない」ことが示されていました。
この発見が意味すること
この事実は、現代の腰痛治療において非常に重要な意味を持ちます。
- 痛みは「神経の炎症や圧迫」から来る
神経そのものが痛みの原因なのではなく、神経が「腫れている、引き伸ばされている、あるいは圧迫されている」という異常な状態になって初めて、坐骨神経痛が発生します。 - 治療のターゲット
したがって、治療の目的は、神経を「非外傷的に減圧(decompress atraumatically)」し、過敏な状態を鎮めることにあると結論づけられています。
要するに、健康な神経は触られても痛くないのですが、一度ダメージを受けたり炎症を起こしたりした神経は、わずかな刺激でも激痛を引き起こす「痛みのスイッチ」に変わってしまうということです。



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