椎間関節における感受性の違いは、Kuslichらの研究の中でも非常に明確に示されているポイントで、
「関節包は刺激に敏感なことがあるが、滑膜や軟骨は無感覚である」と報告されています。
滑膜と軟骨の「完全な無感覚」
Kuslichらの研究では、180例以上のテストを行っていますが、関節滑膜(synovium)や関節軟骨(cartilage)については、痛みを感じた例は一度もありませんでした。
- 統計データ
滑膜の刺激に対して「重大な痛み」あるいは「何らかの痛み」を感じた患者は0%でした。 - 結論
Kuslichらは「椎間関節の滑膜が腰痛や脚の痛みの部位になることは決してない」と断言しています。
(※対象の193名は、椎間板ヘルニア or 脊柱管狭窄症に対する除圧術を施行予定で、椎間関節の滑膜における炎症の有無は記載されていない)
関節包(Capsule)の感受性と痛みの質
一方で、特定の条件下で痛みが生じることが確認されています。
- 刺激の条件
針やコブ挙上器(Cobb elevator)を用いて「強力な刺激(forceful stimulation)」を加えた際にのみ、感受性を示すことがありました。 - 痛みの特徴
生じる痛みは「鋭く、その場所に限定されたもの(sharp and localized)」でした。 - 術前の痛みとの乖離
重要な点として、この鋭い痛みは、患者が日常的に経験している「深く、鈍い臨床的な腰痛」の性質とは一致しませんでした。 - 分布
痛みは主に腰に現れ、ごく稀に臀部(お尻)に及ぶことはありましたが、脚(下肢)にまで達することは決してありませんでした。
「椎間関節症」という診断への新しい視点
臨床では「椎間関節症候群(facet syndrome)」という言葉がよく使われますが、この研究ではその正体について興味深い考察を述べています。
- 間接的な刺激
椎間関節の関節包やその下の骨が、すぐ近くにある「過敏な状態の線維輪(椎間板)」や「神経根」を圧迫・刺激することで、腰痛が生じている可能性があります。
(※関節包の肥厚や、椎間関節を構成する骨の骨棘など) - ブロック注射が効く理由
椎間関節への注射が一部の患者に効果的なのは、関節そのものを治しているのではなく、その周囲にある本当に痛んでいる組織(神経根や線維輪)への刺激を和らげている、もしくは麻酔液が周辺組織に漏出したことによる反応かもしれない、と推測されています。
骨組織の無感覚
椎間関節を構成する骨(関節突起など)そのものについても、驚くべき結果が出ています。
- 局所麻酔なしで、骨を削る器具を使って骨を取り除いても、患者は痛みを感じませんでした。
- 骨膜のレベルであっても、表面の刺激に対しては無感覚(insensitive)でした。
椎間関節そのものは、多くの人が考えているような「痛みの主犯格」ではなく、関節包が強く刺激された際に局所的な鋭い痛みを生じる程度の組織です。
腰痛の「深く鈍い痛み」の正体は、やはりここではなく椎間板(線維輪)などにあるというのが、この論文の主要な見解です。



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